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疫病と世界史 読後感想

ウィリアム・H. マクニール著、疫病と世界史読了。やや読みにくい長文が多く読み終えるのに時間がかかったが、卓越した歴史学者の極めて広壮な人類史に触れることができて良かった。

本書の特徴は微生物が人間に寄生するミクロ寄生と、少数の権力者が大多数の庶民にたかるマクロ寄生という概念であると思われる。疾病(感染症というべきだ)はいかに人類に深刻な影響を与えようとも、偶然性が高いと考えられたのか、歴史家たちの関心を呼んでこなかったようであるが、もっと強く認識されてしかるべきであろう。微生物がその生存のために人間を食するミクロ寄生は理解しやすいが、社会の支配者が被支配者に寄生するマクロ寄生と、いかに多くの共通項を持っているか。この指摘が興味深い。
微生物は、寄生する宿主が死滅してしまえば自身も死滅してしまう。マクロ寄生的視点でこのことを見直すと、支配層の搾取が行き過ぎれば庶民は疲弊し、いずれ搾取できなくなって支配層も健全さを失う、ということになる。ローマ帝国に見られた現象である。不気味なまでの一致である。
南米大陸にスペインが侵入した時、ペルーやメキシコには数千万人のインディオがすでに存在しており、わずか数十人のヨーロッパ人でそれを服従させることができたのはスペイン人が持ち込んだ天然痘のせいであるとされている。インディオには天然痘に対する免疫がなかったから、すさまじい勢いでインディオは斃れていったのだ。いわば自滅である。これを目の当たりにしたスペイン人たちは、勝利したと喜ぶより、困惑したというのが正直なところではないか。これから自分たちに都合よく支配しようと思っていた者たちがどんどん死んでいく。先ほどのマクロ寄生の理論では、これではスペイン人自身も共倒れしてしまう。絶滅に追いやるほどインディオを痛めつければそこから搾り取れるものは少なくなるのだ。これではスペイン人にとってもおいしくないのである。当時のスペイン人たちはこれを十分認識していたと思われる。このような見方は、自分がこれまで見聞きしてきたピサロやコルテスの姿の印象とちょっと違う。

本書はペスト、発疹チフス、コレラなどなど、致死性の高い疫病と人類の歴史との関係を実に説得力に富む筆致で述べている。むろんこれまで注目が少なかったせいで理論を証明するための資料に乏しい(あるいは皆無な)ことも多く、著者マクニールの推論によるところも多い。著者も本文中で述べているように、アプリオリに断定されているところは、人によっては気に入らないかもしれないが、それでもその弱点を補って余りある説得力と合理性がある。同じマクニールの「世界史」も読んだが、人類全体の歴史を俯瞰する観点が大変勉強になった。エピソードや偉人・文化も歴史を学ぶ醍醐味だが、歴史の流れというものに目を向けたとき、マクニールのような大局的な、全地球的な把握の仕方は、歴史を学ぶ本質を教えてくれるように思う。

本書を読んで初めて知ったこと。
・ペストは20世紀初頭に満州で流行したことがある。ヨーロッパだけでなく、世界各地で(イスラム世界でも)流行をおこしてきた。
・日本の歴史と疫病を関連付けた先駆的な研究がある。富士川游著、日本疾病史。今度読んでみよう。
・モンゴルが中国から撤退するきっかけになったのは、中央アジアを高速で移動できて、ペスト等に侵された小集団が死滅する前に新たな人口密集地に移動することができてしまったのが一因かもしれない。
・中世ヨーロッパのペスト流行では、聖職者も民衆も無差別に死亡した。このためカトリック教会への信頼がゆらぎ、宗教改革を生んだ。一方疫病で死ぬのは神のおぼしめしと考えたイスラム世界は、ヨーロッパで発生した予防医学の概念に懐疑的だった。
・インディオは、侵略者であるスペイン人は死なず、自分たちだけが疫病で死んでいく様を見て、自分たちの信じる神が、キリスト教の神に敗れたと思った。これが、南米でカトリックが完璧に根付いた理由の一つと思われる。もっともキリスト教に改宗しても、天然痘や黄熱病は何度もインディオを襲ったため、インディオ達は生きる気力を失っていっただろう。
・疫病は都会病ともいえる。微生物は人口が密集していなければ新たな宿主を簡単に得られないので、集落がまばらで人口が少なかったところでは終息も早かった。その代り一村が全滅して終息することもあったと思われる。
・一世代の間に流行が繰り返されると、その流行を生き延びた者たちで社会が形成されるようになり、その疫病に罹患するのは、かかった経験のない子供たちだけになる。したがってはるかな昔から存在した疫病は、人類との共生を確立した結果、次第に小児病になっていった。
・種痘が行われるようになった頃、疫病の原因は微生物説と瘴気説とに分かれていた。瘴気説は優勢で、種痘はなかなか広まらなかった。種痘はジェンナーが発見する以前からトルコやアジアで行われていた。それは天然痘発症者の膿を用いるものであった。
・ビタミンC不足の壊血病は柑橘類を摂取することで防げるが、それが科学的に証明されるまでは多くの間違いが積み重ねられた(英海軍は船員にライムジュースを飲むことを徹底したが、ライムジュースにはビタミンCがあまり入っていなかった。しかし入手しやすく安価だったのでなかなか改められなかった)。

などなど。やっぱりエピソードも面白いから頭に残っちゃうね。




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